世界のCNPから

くろるろぐ

あ、風俗に行きたい

、と思って、歌舞伎町へ足を運んだ。

 

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実をいうと僕は中学生の頃から歌舞伎町で遊んでいたので(悪くないカラオケ屋があるのだ)、歌舞伎町自体への抵抗はとっくに失っていた。むしろ気が向いたときに散歩コースとして利用するくらい、気に入っている場所だった。

 

僕は仕事を終えてそのまま、よれたスーツとボサボサの髪とを引っさげて歩いていった。どう見ても仕事疲れを「癒し」にきた社会人という風貌だ。さっそくキャッチが声をかけてきた、僕は内心でほくそ笑んでいた。歌舞伎町はこうでなくちゃいけねえ。

 

見慣れた風俗店の前をさりげなく通りすぎた。あまりキョロキョロしていると怖いお兄さんに連れていかれてしまいかねないので、あくまで平静を装って。本当は楽しくて仕方がなかった。小雨が頭を濡らしにくるのも、キャッチが離れていかないのも、歩きつづける足がだるくなってくるのも、割とどうでもよかった。

 

着飾った男女が下品な話をしながら歩いていく。夜の世界とは関係のなさそうな人たちの間を、明らかに夜の影をまとった人たちが縫っていく。着物をかちりと着こなし髪を盛り上げた女が静々と通りすぎる。キャッチが横に並んできて小さな声で店を勧めてくる。

 

キャバクラがある、ホストクラブがある、ガールズバーが、マッサージ店が、そして風俗店がある。ひっそりとした店構えのところもあれば、あかあかと看板を照らしている店もある。

 

僕はそれらを歩きながらゆっくり眺めた。立ち止まるとキャッチの餌食になってしまうからね。

 

人々の行き交う様子は、いくら見ていても見飽きなかった。僕はそれぞれの人生を勝手に想像して楽しんだ。

僕が通ってこなかった道を通ってきた人たち、僕が選びそうもない道を選んでいく人たち。

他人の人生を想像して空想して夢想している間は無能な自分のことを忘れていられるから、気持ちが少しだけ楽なのだった。

 

そうやって1時間ほど散歩を楽しんだ僕は、満足して帰路についた。

 

 

は?

 

 

違うんです。これが僕流の「風俗に行く」ってことなんです。

 

皆様ご存知のことと思うが、僕は「性欲的なるもの」を愛好して23年間を生きてきた。

すると時たま、こうして「性欲的なるもの」の匂いを嗅ぎたいという衝動に駆られるのだ。

そんなときに歌舞伎町は、キャッチさえ追い払えるなら、なかなか悪くない。

 

つまり、自分自身がセックスをすることに全くと言っていいほど興味を持っていない僕は、もともと風俗店に客として入店するつもりなどない。ただ人々の生(ナマ)の性欲が行き交う街の空気に、癒されようとして訪れただけだ。という話なのであった。

まあ、風俗に行きたい、という言い方は確かにちょっと狙いすぎだったと思いますね……。

 

とはいえ今日は時間が早過ぎたので、どちらかというと「昼と夜との狭間」を味わう散歩となってしまった。

もちろん、これはこれで面白い。

しかし個人的に、歌舞伎町が最も面白くなるのは0時を過ぎてからだと思う。性欲の匂いが充満し、街自体が熱を帯び、荒い息遣いが聞こえるような気さえする。その時間帯のキャッチは必死になってくるので、言葉もより下品に、よりあけすけになる。

 

そういうときにラブホ街の方をうろつくのが僕のささやかな楽しみである。何か言いたいならはっきり言えよ。

 

 

とはいっても雨が断続的に降るようになったので、今日は諦めて帰宅することにした。本当はもう少し遅い時間も見ていきたかったが、雨に打たれながら歩いているとキャッチが……なんだよもう!!!!  昔はここまでじゃなかったのに、疲れ切った社畜の顔をしているせいなのかお店に誘われつづける!!!!!! ほっといて!!!!!

僕は性欲的な乱痴気に参加したいのではなく、性欲的な空気を吸ったり吐いたりしたいだけなのだ。「めっちゃ嫌な顔された……」ってキャッチ仲間に吐き捨てたの、聞こえたからな。

 

ともかく人生たまには気晴らしが必要だ。それは他者に迷惑をかけたり他者を傷つけたりしない限り、どんな形でも許されるはずだ。

 

だから僕は今夜も、えっちなえほんを読んで寝る。風俗モノを読んで寝る。