オススメの小説を紹介していきます
ここのところ暗い記事しか書いていない。人生があまり明るくなっていない時期に明るいことを書くというのは難しいものだ。
というわけで今日は趣向を変えて、好きなものの話をしようと思う。
小説の話をする。
今回は「こういう人にはこういうのがいいんじゃないか」という視点から適当な小説をピックアップしていきたい。いわゆる独断と偏見ってやつだし、僕が読んだことのある数少ない小説の中からいま思いついたものを雑に挙げていくだけなので、あまり期待しないでほしい。
という感じでオススメの小説を紹介していきます。
そもそも長い文章を読むのが苦手な人
→短編集、ショートショート
別部署の先輩がはっきりおっしゃっていた。「長い文章を読んでいると途中で眠くなって死ぬ……」と。そんな方は死んでしまう前にまず短い小説を読んだらいいと思う。
星新一「宇宙のあいさつ」
僕は昔から星新一を長編苦手勢にオススメしている。
基本的にSFものが多い。児童文学のようなのんびりとした読みやすさと、クスッと笑える奥深さがある。ショートショートという形式である以上、限られた長さの中に物語をおさめなくてはならないわけだが、星新一の作品はその点とてもキリッとおさまって気持ちがいい。
村上春樹というと「1Q84」や「海辺のカフカ」、最近だと「騎士団長殺し」あたりの長編が有名どころだと思う。しかし短編のことを忘れてはならない。短いのに、短いからこそ、鮮烈で奇抜。ハルキ文体を揶揄してきたけど実はモノホンを読んだことがないという人にもオススメ。
これでもまだ長い……という場合は、「掌編」というジャンルを調べてみるとよいと思う。短編よりもさらに短い作品だ。ものによっては文庫に換算して1ページに収まるようなものもある。
川端康成「掌の小説」
川端康成は何となくお堅い作家のように見えるかもしれないが、「間接的なエロス」の描きこみの巧さからみて、実はかなりの変態なんじゃないかと僕は思っている。
それはさておき、この「掌の小説」は文庫にして各話2〜3ページの作品すらも入っている掌編集である。題からして「掌編」って感じだ(小学生並みの感想)。それでいながら一話一話に考えるべき要素があり、ひとつずつ読み味わえる。
夢野久作「いなか、の、じけん」
久作の掌編は基本的にどれも本当にかなり短いが、彼特有のネットリと絡みつく文体の濃縮版といえる。たったこれだけの長さに、脳髄をふらつかせる地獄を詰め込んでいる。「いなか、の、じけん」は特に短いのでお試しに読んでみていただきたい。
こういう短めの作品がいっぱい詰まっているやつを一冊持っておくと、暇なときにかなり重宝すると思う。無限に読めるし、どこからでも読めるし、やめたいときにやめられるし、飽きない。
ワクワクするストーリーを楽しみたい人
→海外ファンタジー小説
小説が苦手という人、「小説でワクワクする」感覚を知らないのではという気がする。堅苦しい小説ばかり目の前に差し出されて読め読めと勧められたら、確かにワクワクできそうもない。
そんな場合には海外の、しかもファンタジーが個人的にはオススメである。まあ翻訳しか読んだことがないので偉そうなことは言えないんだけれども(「翻訳された文章は原文と本質的に異なるものとなってしまう」という感覚が僕の中にあるのでできれば原文で読みたいところなのだ)、海外のファンタジー小説というのは基本的に読みやすい。映画的というか、映像的というか、色彩豊かな作品が多いように思う。
いや僕はハリー・ポッター大好きだからな。呪文とかほとんど覚えてしまったくらい。小説では「コンフリンゴ!」だった爆発呪文が映画では「ボンバーナ!」になっていたことに気づいたくらい。
魔法の華やかさもさることながら、10代の人間関係のありようとか、世界との向き合い方とか、そういった描写もよい。頭から全て読んできた人だけが7巻33章で号泣することを許される。
ジョナサン・ストラウド「バーティミアス」
これ大好き。脚注の使い方に注目。センスのある皮肉屋、という存在の重要性に気づいたきっかけとなっている作品。
一見かなり長そうに見えるが、「読みはじめると止まらない」という感覚を味わうことができる。
ミヒャエル・エンデ「モモ」
- 作者: ミヒャエル・エンデ,大島かおり
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2005/06/16
- メディア: 新書
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たぶん皆様すでにお読みなのでは? そうでもない?
日々が忙しくて苦しい思いをしている人にもオススメしたい。児童向けの本となっているが、それが「堅苦しい小説」に疲れさせられている人にはむしろいいような気がする。
海外ファンタジーには子ども向けでありながら大人の感動も誘う絶妙なバランスで書かれているものが多くあるように感じる。社会の荒波に揉まれて溺れかけている僕らに容赦なく名言のナイフが刺さり僕らを浄化しにくる。
脳が疲れていても比較的読みやすいんじゃないかな、なんて思う。
日本文学から手を広げたい人
もともとわりかし読書が好きで、硬めの文章にも抵抗はない、という方にはロシア文学が面白いのではないかと思う。僕には面白かった。
「人称を大事にしている」「人間の深層を描こうとしている」という点が好きだ。
ウラジーミル・ナボコフ「ロリータ」
- 作者: ウラジーミルナボコフ,Vladimir Nabokov,若島正
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/10/30
- メディア: 文庫
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好きすぎていまLINEの一言欄もここから取っている。
「ロリータ」への愛を紡ぐ言葉はとにかく幻想的だ。たとえ世に認められない想いでも、その主にとっては美しき愛なのだ。
構造論なんかをやってきた文学部卒的にワクワクする仕掛けも盛り込まれていて読み応えがある。
犯罪者の部屋から出てきたときに動機の一部みたいな映され方をしていたような記憶があるけど、たぶんそういう受け取り方をする人ってのは一度も読んだことがないんだと思う。
一貫性のない人間心理を精緻にスケッチしている、とかなんとか売り文句をつけたくなる。これは三人称小説のひとつの在り方だよなあ、みたいなことをいつも思う。思ったより読みやすい。
イワン・ツルゲーネフ「はつ恋」
自分を見失うような恋を思い出したい人にオススメ。あるいは何かに敗北してみたい人にオススメ。こんなタイトル、こんな表紙なのに、中身は暴風雨にご注意くださいって感じ。頭を打ち付けたくなるような「よさ」がある。
ロシア文学はどことなく日本文学にも似ていて、入りやすいところがあるような気がしている。特に「ロリータ 」は本当に見事な作品なので是非……。
小説を読んで何の役に立つんだよってなっちゃって上手く読めない人
→知識を盛り込んだ系の小説
「参考書は勉強になるけど、小説は目的がないから、読み進めていっても最終的に「で?」ってなっちゃう……」
という意見を聞いたことがある。なるほど、と思う。確かにそういう意味で小説は単純に「知識」を得るためのものではないといえるかもしれない。
そういう方が何かお読みになる場合は、知識を盛り込んで物語に載せました〜というような論理系小説がいいのではと思う。
「日本三大奇書」と呼ばれる三作品のうちのひとつ。推理小説。どこから持ち出してくるのか、ありとあらゆる知識が湧き出てきて推理に組み込まれていく。そして何回か読んでいるうちに、その推理の鮮やかさが理解されて気持ちよくなってくる。
有名すぎて今さら語るまでもない気がする。タイトル通り、点と点とを線と線とで結んでいくトリックが目覚ましい。実際の日本を舞台に書かれているので、リアリティという点で間違いがない。色々と実際に小説どおりやってみたくなる。
まあ知識といっても、小説は参考書ではないので、何かを覚えさせるような工夫があるわけではない。が、物語の記憶と結びつけて、ふとしたときに呼び出せるようにしておく、というのは悪くないことだ。
そういうのを読んで積み重ねるうちに、「物語を読む」ことに対して面白さを感じるようになって、「で?」とならなくなってくるんだと思う。
漫画は好きだけど小説になると手が出ない人
僕はラノベも好きだ。最近あまり読めていないが……(オススメを教えてください)。
いうなればライトノベルは「文字で書かれた漫画」であり、つまり漫画である。ならば漫画好きの人にも読めるはずである(強引)。
実際、ラノベというのは見た目こそライトだが、中身はれっきとした物語の文章である。
言いたいことが出てきてしまうこともあるっちゃあるんだけれど、そんなことよりも、「魅力的なキャラクターたちが織りなす物語」ってとこに着目してストレートに楽しんだ方が得だと思っている。
涼宮ハルヒの憂鬱 文庫 1-11巻セット (角川スニーカー文庫 )
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誰が何と言おうと僕は長門が好きだ。
真面目な話、この作品のよいところとして、「一人称小説であることを活かしている」というところがある。
視点人物を切り替えることをせず、徹底した一人称にこだわっているため、他人の気持ちに気づかなかったり自分の気持ちを誤魔化したりする「揺れ」が表現されている。僕はそういうのが好きなのだ。
空の境界 上・中・下巻(講談社)+正統継承作品「未来福音」(星海社文庫)全話完結全巻セット (空の境界)
- 作者: 奈須きのこ,武内崇
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誰が何と言おうと僕は式が好きだ。
伏線の張り方、そして回収の仕方が美しい。描写も綺麗だ。しっとり、ひっそりとした語り方に引き込まれる。
やはり元来ゲームのシナリオライターであるということが影響しているのか、「設定」に対するこだわりを強く感じる作品だということもいえる。矛盾なき世界観を保つことができるのは、設定の緻密さゆえだといえよう。
野崎まど「ファンタジスタドール イヴ」
これをラノベ枠に入れていいものかどうか分からないが、アニメの前日譚という位置付けなので一応ラノベなのだろう。入れ子状になった作品構造、科学と心理学との融合、などなど、あまりにも美味しい作品である。正直、初めて読んだときはしばらく衝撃で動けなかった。
本編のアニメの雰囲気とはだいぶ違うのもまた面白さである。
ラノベもまた人を癒すものだと思う。ラノベは漫画の延長線上にあるものとして気負わずに読める一方、漫画では使えないような小説ならではの技法を盛り込むこともできるので、いいとこどりの存在なのではないか。
むしろ日本文学を読みたい人
→あまり知られていない作品を一緒に読んでください
どんな物事に関しても、まずは有名な作品から攻めていくのが定石のような気はする。けれども、そういう記事とか論文とかはすでにたくさんあるはずなので、僕は一旦そっちを置いておくことにする。
むしろ意外と知られていなくてあまり盛り上がれず寂しい思いをした作品をオススメして、仲間を増やしていきたい。
「地獄変」の方は有名だと思うけれども、「偸盗」はそもそも読み方すら知られていなさそうな気がする。
「偸盗」は群像劇ちっくで動きが派手で、ほかの芥川作品とどことなく雰囲気が違うような気がする。気がするだけかもしれない。
ちなみに芥川を読んで苦しい気持ちになりたいときは「芋粥」や「鼻」がオススメ。
泉鏡花「外科室」
エロい。
この時代、この世界観でこのエロスは衝撃である。直接的な単語や表現よりも、もっと強くこちらを揺さぶってくるモノというのがある。文体は硬めだけれども、あっ……すき……ってなるので読んでみていただけたら嬉しい。
太宰治「女の決闘」
太宰という人はずるい。文壇において「太宰」という強固なキャラクターが一人歩きしてしまったことを逆手にとって、「君たちは僕の作品を見るたびに「太宰」を持ち出していないか?」と小馬鹿にしたような問いを投げかけてくる。「女の決闘」はそういう作品である。と思う。
「太宰ってあのヤク中メンヘラで女と心中したやつっしょ?」というイメージしか持っていない人はすでに「太宰治」という罠にはまっているのではないか……
夢野久作「氷の涯」
こういう形式の語りを読むと血が騒いでしまう。どこまでが欺瞞であるか、証明する手立ては何もない。……というふうにワクワクできるので、久作作品の中でもかなり好きな作品である。
社畜の人
→旅(に出る)小説
大江健三郎「孤独な青年の休暇」
仕事が休みのときに遠出するのっていいよね。
仕事が休みのときに遠出するのっていいよね。
一緒に暗くなろうね。
…………。
こんな感じで小説を紹介してみた。いかがでしたでしょうか。
こうして色々と書いてみると、僕にはプレゼン能力が欠けているということがよくわかった。作品の魅力をいまいち伝えられなかった。本当は本当に面白いのだということを察していただきたい。
そのためには、実際にご自身でお読みいただくのが早いと思う。
暇な時間に敢えて「小説」を読む、というのは、普段やらない人にとってそこそこハードルの高いことなのかもしれない。ネットニュースやツイッターの方が圧倒的に手軽だしな。
とはいっても。
小説というのは人を救いうるものだと思う。小説を介して「他人が世界をどう見ているか」というのに触れ、他人の世界を味わい、他人の感じ方を知ることで、自分の世界を見つめなおすことができる……ように思う。少なくとも僕はそんな感じで、つらくなったときに小説を読んでみることにしている。
僕の拙いブログで何が伝わったか分からないが、何かしら手を出して見ていただければ幸い。
そして僕にも面白い作品を教えていただけたら最高です。僕はあまりたくさんの小説に出会えているわけじゃないので……。
以上、小説の話をした。