宿題
宿題1. 僕の恋人氏に対する感情と、恋人氏の僕に対する感情について
1-1.
恋人
(読み)コイビト
デジタル大辞泉の解説恋しく思う相手。普通、相思相愛の間柄にいう。「恋人にあう」「恋人ができる」
[用法]恋人・愛人――「恋人」は恋しいと思っている相手で、多く相思相愛の間柄についていうが、片思いの場合にも使うことがある。「スクリーンの恋人」◇「愛人」は、かつては「恋人」の漢語的表現として同義に用いたが、現在では多く配偶者以外の恋愛関係にある相手をいい、一般に肉体関係があることを意味する。「情婦」「情夫」の婉曲的な言葉として使われる傾向もある。
(参考: 恋人(コイビト)とは - コトバンク )
相思相愛
(読み)ソウシソウアイ
デジタル大辞泉の解説互いに慕い合い、愛し合うこと。両思い。「相思相愛の仲」
(参考: 相思相愛(ソウシソウアイ)とは - コトバンク )
愛
(読み)あい
(英語表記)love
翻訳|love
ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説愛は人間の根源的感情として,全人類に普遍的であり,人格的な交わり,あるいは人格以外の価値との交わりを可能にする力である。ときに憎しみの対立概念とみなされることがあるが,根源的な生命的原理としては,それをも包括するものである。愛は歴史的に,地理的に,さらには交わりの形において諸相をとる。古代ギリシアにおける愛はエロスと呼ばれ,これは肉体的な愛からさらに真理へいたろうとする憧憬,衝動を含んでいる。キリスト教における愛すなわちアガペーは,人格的交わり (隣人愛) と神への愛を強調し,これを最高の価値として自己犠牲により到達されるとした。ルネサンスにおいて愛は再び人間謳歌の原動力ともみなされたが,これは愛の世俗化を意味するものともみられ,工業化の進む現代はその傾向をますます強めている。愛は人間の根源的感情であるところから,ヒンドゥー教でのカーマ,儒教における仁,仏教における慈悲などすべての文化圏にもみられる。また愛の現れ方は一様ではなく,性愛や友愛,愛国心,家族愛など交わりの諸相によって異なる。交わりの関係がかたよった場合には,異常性愛や憎しみに近い偏執的愛に変ることもあるが,これはもはや本来的な愛とはいえない。
(参考: 愛(あい)とは - コトバンク )
1-2.
僕の母親は大変な頭痛持ちだった。日々の生活の中でも常に苦しんでいたし、遠くへ遊びに行けば翌日には必ず寝込んでしまうような人だった。ストレスと虚弱体質と遺伝とカフェインの過剰摂取と、などなど、典型的としか言いようのない典型的な偏頭痛おばさんだった。
幼い頃から母親のそんな姿を見てきた僕は、必然的に「頭の痛い人は無理できない」ということを学んだ。前々から楽しみにしていた旅行へ行こう、といっても、母親は動けないのだ。布団にくるまって、頭に湿布を貼って、唸り声をあげて、……僕は「思いやりのある子ども」だったから、旅行へ行けないことよりも母親が痛がっていることの方が悲しかった。
できることなら代わってやりたいと本気で思っていた。母親の痛みを知りたいと思った。そして、知ることはできないのだということも同時に悟った。
ある日、僕は40度の熱を出した。前々から申し上げているように、僕は妙に丈夫で、40度くらいの発熱じゃ倒れることができないタイプの人間だ。むしろいつもより調子の良さそうな顔色と声色とをしていた。それでもさすがに体が重く、全身が痛く、できれば動きたくなかった。
当時、うちには車があった。母親がいきなり普通免許を取って、いきなりローンを組んで買った軽自動車だった。そこで母親に車で病院まで運んでくれるよう頼んだ。こういうときのためのマイカーだと思う、といって。
しかし母親の答えはこうだった。「雨が降ったあとで地面が濡れて滑りやすいから嫌。病院へは自分で自転車で行きなさい」。
僕は愕然とした。「雨が降ったあと」の「滑りやすい」地面の上をチャリで走れ? 40度の熱を出している僕が? 僕は抗議した。懇願した。しかし母親は頑として動かず、僕は本当に自転車で病院まで行った。病名はインフルエンザだった。
できることなら代わってほしいと本気で思っていた。僕の痛みを知ってほしいと思った。そして、知ってもらうことはできないのだということも同時に悟った。
1-3.
1-4.
2009年9月 邂逅
2010年8月 交際開始
2014年2月 再度交際開始
2015年6月 連絡断絶協定
2016年3月 連絡再開
2016年4月 断続的連絡
2017年頃 「もう考えるのをやめた」
2018年4月 精神安定剤導入②
2018年10月 現在
1-5.
彼は幼い頃から癇癪持ちであった。
曰く、彼は頭の中に火打ち石を持っているらしい。それが時折カチカチと音を立てて火花を起こす。すると火がパッと散って燃え上がり、彼を衝動的で暴力的な何かへと誘ってやまないらしいのだった。
そういう状態になった彼は自分でも抑制がきかなかった。この壁を蹴飛ばさなければならない、そうしなければ何か大きな存在に嘲笑われるような気がする……今すぐ大声で怒鳴らなければならない、この怒りを知ってもらわなければやっていられない……彼はそうやって自分の中の炎を発散させては周囲を焦がしていたのであった。今にして思えばそれは、何らかの病だったのかもしれない。しかし彼の周囲は、彼をただ癇癪持ちとして扱い、癇癪持ちとして持て余していた。彼自身もまた、抑え込めるはずのものを抑え込めない自分に辟易としつつ、いつ来るかわからない癇癪に怯えながら過ごしているばかりだった。
彼はそうして家族から疎まれた。友人の前ではどうにか自分を抑えようとしていたようだったが、時折その眼はパチパチと明らかに燃えていた。癇癪はいつも突如として虎のように吠え、蛇のように舌を出した。
そうした彼には恋人がいた。美しいひとであった。優しいひとであった。彼は恋人を、誰よりも慈しみ、誰よりも赦し、誰よりも求め、誰よりも愛した。そしてそのために、誰よりも自身の炎に近づけてしまった。彼は恋人に対してでさえも、恋人だからこそ、抑制できなかった。恋人は何度も火傷を負い、何度も彼の元を離れ、離れては戻り、戻っては離れた。彼は恋人を失うことを恐れた。恋人を誰よりも大切に守らねばならないと決意した。しかし彼の癇癪は、彼の意思を超えて恋人を襲った。恋人は傷つきすぎてしまった。恋人を傷つけるたび、彼は苦悩に襲われた。その苦悩がまた彼の炎に油を注いだ。そうして、何もかもが狂ってしまった。
彼は燃え盛る脳髄を鎮めなければならないと気づいた。彼は西洋医学の力を借りることにした。たちまち、彼の癇癪はほとんど抑え込めるほど弱体化した。あまりにも簡単な話だった。彼は恋人を壊してしまう前にこうするべきだったのだ。彼は後悔した。しかし彼には今更どうすることもできなかった。彼の罪は一生拭い去れないものだった。彼のために火傷を負いつづけた人々の憤怒が、恋人の怨嗟が、今度は彼の炎に代わって彼を灼きはじめた。
恋人が自分を好いてくれているとは思えない、と彼は呟くのだった。むろん当然のことであった。恋人が今でさえまだ彼の恋人を名乗ってくれているのは、癇癪の激しかった頃の彼が離れようとするたび荒れたからだろうと思われた。恋人の貴重な時間を、若者の輝きを、彼は間違いなく奪い尽くそうとしていた。律儀で貞淑な恋人は、彼が恋人として在るかぎりほかの人間と交際できないのだった。
彼は苦しんだ。彼はもう恋人のいかなる自由も奪いたくないと考えた。恋人の趣味はどのような内容であれこの世の何より素晴らしいものだと感じた。恋人が休日を寝て過ごしたいといえば彼もその隣でごろりと横になって過ごしたし、出かけたいといえばどこへでも出かけた。きっとないことだろうが、恋人がほかの人間と不純交遊を楽しみたいのであればそれも構わなかった。一方、恋人が不純交遊を心から嫌っていると知るやいなや、彼は友達を片端から減らしていった。恋人は彼にとってもはや法律であり、正義であり、神様であった。
しかしそうまで想いながら彼には、恋人と別れてやるということだけがどうしてもできなかった。
彼はいつも夜半に吠えるのだった、ここまでのことをしておきながら、それでも恋人を縛りつけて、不快で不安で不毛な思いをさせている、自分だけが好きな人と過ごせる喜びを貪り食って、自分だけが幸せになろうとしている、この人を傷つけてばかりの自分だけが、己のことしか考えていない自分だけが、と。
他人の気持ちは分からないものだ、と彼は泣きながら語り聞かせた。たとえ今、恋人が自分を好きだと言ってくれたとして、その言葉が感情をできるだけ正直に吐露したものであるという証拠などどこにもない、恋人が抱き寄せてくれたとして、それが愛の保証になるとは考えられない、他人の言動は他人の感情そのものを映し出すものじゃないから、他人の外面は他人の内面と繋がらずともよいものだから、……彼はだんだん大きくなる声を抑えることもしなかった。あれだけのことをして、あれだけ傷ついたのに、好きでいてくれるはずがないじゃないか。
しかし彼は叫びたいだけ叫んだのち、必ずこう言い足すのだった。
でも自分はあの子のことが好きなんだ。
自分の感情であるからといって、自分によって確実に理解・把握・確認できるとは限らない……哲学を齧ろうとする者は必ずこの境地に至ることになっているのかもしれない。彼は本当に恋人を愛しているのだろうか? 執着心、恐怖心、何らかの感情を勘違いしてはいまいか? こればかりは彼自身にも、そして誰にもわかるはずのない話だ。
とはいえ。
とはいえ、彼はいつもそのことを考えはじめると、恋人の笑顔を思い出して有耶無耶にしてしまうのだった。有耶無耶にしてしまえること自体が答えのようでもあり、有耶無耶にしてしまうがために答えから遠ざかっているようでもあった。
恋人は特に最近、よく笑うようになった。恋人は彼に対し、優しい言葉を多くかけるようになった。彼が会いにいけば、嫌な顔ひとつせず受け入れた。彼が好きだと口にしても、やめてほしいと言わなくなった。おかげで彼は、おかげで彼は、身を焼くような罪悪感に囚われた。
彼は思うのだった。恋人は美しいひとだ。恋人は優しいひとだ。あらゆる表情を、あらゆる言葉を、あらゆる態度を、相手が傷つかないように柔らかく整えることのできるひとだ。恋人が優しいのは、温かいのは、彼への好意ゆえではなく、ただ恋人が常識の範疇において、他者である彼に対し、失礼にならぬよう振る舞おうとしているゆえに過ぎないのではないか、と。
彼は頭の中の虎を眠らせ、頭の中の火打ち石をただの石ころの中へ隠し、二度とそれらが他者に、特に恋人に、火傷を負わせることがないよう願っていた。祈っていた。努めているつもりのようだった。彼には“愛”のことなど何ひとつわかっていないようだったが、少なくとも彼は、彼にとっての“愛”を、懺悔あるいは贖罪に類するものとして信じているようだった。
しかし本当に罪を贖うつもりであるなら、彼は恋人から離れることでそれを為さなければならないはずだった。彼はそのことについても言及した。彼は恋人にしがみついていた、そのために彼の悔恨や反省や謝罪の言葉はすべて虚しいものとなっていた、彼はそれを把握しながら、それでも恋人のそばを離れるという選択に踏み切れないのだと言った。恋人の、あの笑顔が、あの言葉が、あの態度が、少しでも自分への好意からくるものなのではないかと、期待せずには……夢想せずには……いられなかった、と。彼にはもう何もわかっていないらしかった。すべてを信じてみたいと思う反面、すべてが優しい嘘のようにも見え、すべてを信じるには罪を犯しすぎたと思う反面、すべて本当は赦されていたのだと思いたくもあり、などと語る彼は、もうとっくにどこへも行けなくなっているようなのだった。
ああそれにしても語りつづけた彼の、なんと醜かったことか。
1-6.
1-X.
わからないし、わからない。
宿題2.自分を無能だと思い込むことの傲慢と、自分は無能だと主張することの怠慢について
2-1.
無能
(読み)ムノウ
デジタル大辞泉の解説
[名・形動]能力や才能がないこと。役に立たないこと。また、その人や、そのようなさま。「無能な指揮官」「無能無策」⇔有能。
(参考 :無能(ムノウ)とは - コトバンク )
傲慢
(読み)ごうまん
(英語表記)orgueil
ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説
他者に対して優越を覚えるほどの自己満足の状態を意味するが,特にパスカルにおいて,自分のみじめさという人間本来の状態に無知であることとして重視された。
デジタル大辞泉の解説
[名・形動]おごりたかぶって人を見くだすこと。また、そのさま。「傲慢な態度」「傲慢無礼」
(参考: 傲慢(ごうまん)とは - コトバンク )
怠慢
(読み)タイマン
デジタル大辞泉の解説
[名・形動]当然しなければならないことをしないこと。なまけて、おろそかにすること。また、そのさま。「怠慢な行政」「職務怠慢」
(参考: 怠慢(タイマン)とは - コトバンク )
2-2.
自分が無能と思ってしまうことがエゴとは?
自分が得意・できることは、とても貴重です。あなた以外の人は不得意で、他人にはできないことかもしれません。あなたが得意なことをすること、自分だったら苦労もなく難なくできることは実は神様からの贈り物です。それは人の役に立つことで、人の役に立つということは、神様が体を持ってできないことを神様の代わりにやれる神様の役にたつことができる行為です。
その贈り物を「たいしたことない」「自信がない」「自分は能力はない」と否定することは非常に独りよがりで、傲慢なことですよ。ということです。
早くあなた自身で、自分の魅力に気づき、自分が得意や難なくできること、当たり前に自然にできること、好きなことを磨いてください。そして、今度はそんなあなたを通じて助かる人に手渡していってください。必ずあなたを通じて助かる人、癒される人、気づきを得られる人がいるからです。
「そうは思えません!」
「自分で考えてもモヤモヤが晴れません><」
「自分の場合は原因はなんだろう?」
という方はハートボイスであなたの心の本音を通訳します。
ハートボイス®セラピストは、あなたの本当の心の声=ハイヤーセルフの思いを通訳します。
(参考: 自分が無能だと思うことは傲慢エゴです。その原因は?自分ではない人の問題を背負う癖がついていたから | 生き辛さの原因を潜在意識の思い込みを外して改善します )
2-3.
セルフ・ハンディキャッピング(英語: Self-handicapping)とは、自分の失敗を外的条件に求め、成功を内的条件に求めるための機会を増すような、行動や行為の選択のことを指す概念。
自らにハンディキャップを課すことで、たとえ失敗した時でも他のせいであると言い訳ができるようにして自尊心を守る。成功した時はハンディキャップがあるのに成功したと自己の評価をより高められる予防線を張る防御的な行為である。これらの行動に能力の向上や生産的な価値はない。
試験前などに「全然勉強してない」、「体調が悪い」、「これは私は苦手で、うまくいかない」など予防的な発言をして周囲の友人などに広める行為もこの一種で、「主張的セルフ・ハンディキャッピング」という。この場合は失敗したときに、周囲の評価を下げないようにし、成功した時はより周囲の評価を高めるための事前工作として、周囲の人からの防御のためにする。
(参考: セルフ・ハンディキャッピング - Wikipedia)
2-4.
2-5.
さァお立ち会いお立ち会い……
ご婦人、ご紳士、そのほか大勢、みィんなまとめて見てってくんな。あっしはしがない流浪の商人、西に東に縦横無尽。そこ征くアンタも見てっておくれ。見てゆくだけならお代も要らぬ……
さてさて本日取り出したるは、アッと驚くお値打ち商品、当方自慢の採れたて新鮮、活きの悪ゥい無能の人間……
ナニ、奴隷商? 違法で逮捕? ハッハハ、お馬鹿をお言いでないよ。こいつは奴隷じゃなくって無能。無能は奴隷にゃなりゃしません。奴隷でないなら、売っても平気。法律書にもそう書いとります。やァ、まあようは知りませんがな。ワッハッハッハ、ハッハッハ……
さてこの無能をご覧召されよ。夢破れて運が無し、ただ人の世のゴミの如し。下品、残品、粗悪品っと、折り紙つきの無能でござんす。何をやらしても三流三下、当然のように結果は散々。それでも口だきゃ一丁前なんで、お口を塞いでお売りしやす……
こん猿轡を外した瞬間、まるでさながら水得た魚、自分は無能だ死ぬべきだ、立て板に水の大騒ぎ、喚き叫んで聞かせたる、欺瞞放漫役満貫。自己客観視の上手い自分っと、自己陶酔の自己泥酔。そんなに死にたきゃ殺してやるよと、鞭打ち首絞め水に沈めりゃ、あっぷあっぷと喚き散らして、醜いッたらありゃしない……
さァお集まりの皆々様。おうちにおひとりいかがでしょ。殴るも蹴るも自由自在、生かすも殺すも貴方次第。喧嘩の代わりにこいつを苛めりゃ、家庭円満まちがいなし。さァ御子様に御老人。流行りの遊びもいいけれど、好きに嬲れる人間を、おもちゃにするのはいかがでしょ……
や、やや、皆様、どこへいく……まだお話はこれからで……なんとこちらのクズ無能……今ならお値段半額で……や、いや、わかった、まだ引こう……負けられるだけ負けましょう……あ、そりゃ、お待ちよ、お聞きなよ……ええィ、わかった、もう構わん……タダでお譲りいたします……タダより安いものはなし……どうかどなたか引き取って……どなたかどうかお助けを…………
や、やや、あちらに見えますは……あっしのご主人様でござい……お待ちください旦那様……まだまだこれから戦いで……必ず今日こそお売りします……あァ、いや、どうか、おやめなせぇ……その鞭、その縄、その甕を……どこかへ仕舞っておくんなせぇ……
……ハァ、そうでござい、あっしこそ……天下に一人の大無能……無価値、無気力、無能力……ですからどうか旦那様……あっしを殺しておくんなせぇ……
2-6.
(「語ってしまう」ことの醜さ。虚栄と粉飾。
※共感しているのでも投影しているのでもない。)
2-7.
A「とはいっても僕はもうすぐ死ぬんだよ」
B「そりゃまぁ君の罪は重かったからね」
A「弁護士の話じゃすぐ出られるはずだったのに、どうしてこうなってしまったんだか」
B「さぁ、赦されるような罪じゃなかったからだろう」
A「それはそうかもしれないな」
B「しかし、遂に、といった感じだな」
A「僕もそのことを考えていた」
B「君は昔から罪人だったから」
A「まったくだ」
B「嘘つきめ。まったくだ、なんて思っちゃいないんだろう」
A「まあね」
B「“僕はいつだって人々のことを赦してきたのに、人々はいつだって僕のことを赦してくれなかった。人々の過去は忘れ去られていったのに、僕の過去は度々ほじくり返されて責められた。僕は人々を愛していたのに、人々は僕のことが大嫌いだった”」
A「読心術の真似事かね」
B「そういう顔ばかりしてきたじゃないか」
A「人の顔をじろじろ見るなよ」
B「まああまり見ていたい顔でもないね」
A「しかし僕は気づいたんだよ」
B「自分の顔の醜さに?」
A「鏡を見てから物を言え」
B「悪かったよ。続けて」
A「人々が赦されるのは人々に価値があるからだ。人々の過去が忘れてもらえるのは人々の現在が過去を凌駕しているからだ。人々が愛されているのは人々に愛される権利があるからだ」
B「そして自分はそうでない、と」
A「アハハ」
B「相変わらず吐き気のする自己愛だね」
A「哀しいことにね」
B「だいぶ嬉しげな顔をしているけどな」
A「まだ顔を見るつもりか」
B「死を目前にした人間の顔を見る機会なんてなかなかないからね。怖くないのか?」
A「むしろありがたいよ」
B「罪を償わなくて済むからな」
A「ご明察」
B「あれだけ多くの人を傷つけて」
A「本当に悪かったと思っているよ」
B「汚い過去も清算せずに」
A「清算できるようなものじゃないしな」
B「自分は無能だ無能だと叫んで」
A「事実、無能じゃないか、僕は」
B「そんで逃げるのか」
A「そうなるな」
B「意気地なし」
A「“人は簡単に変わらない”」
B「なんだい」
A「尊敬する人に言われたんだ。このまま生きていても僕はどうせ変わらない」
B「多くの人を傷つけて」
A「そう」
B「汚い過去を背負って」
A「そうとも」
B「自分は無能だと思い込んで?」
A「ああ」
B「そしてそれを主張して、赦してもらおうとして」
A「おう」
B「なるほど死刑は救いかもな」
A「わかってくれて嬉しいよ」
B「だからこそ、こういうタイプのクズ野郎は死刑にすべきじゃないと思うんだけど」
A「司法に万歳」
B「乾杯」
A「なあ」
B「なんだ」
A「僕の生き方の何がダメだったんだろう」
B「他者を赦し他者を愛してきたのに、自分だけが赦されず自分だけが愛されなかった、それが“ダメ”の中身ということでいいか?」
A「そんなことは思っていない」
B「思っているんだよ」
A「人の感情を決めつけるな」
B「一理あるな。しかし、親友の客観的な意見を聞いておいて損はない」
A「親友だと思ったことはないが」
B「まあ、君のよくないところは、独りよがりなところだと思うよ」
A「そうか」
B「そうとも」
A「そうか」
B「気づいてよかったな」
A「とはいっても僕はもうすぐ死ぬんだよ」
B「そりゃまぁ君の罪は重かったからね」
2-X.
「僕は無能です。僕は無能です。どうか皆様お聴きください。僕は無能です。僕は無能です。どうか皆様お赦しください」
X-X.
過去に学び現在に活かし未来を創る、そういう生き方を赦されるのは善人だけであって、罪人は過去を背負い現在も未来もそれを贖いつづけなくてはならない存在なのであった。被害者はいつでも救われるべきだが、加害者は永遠に救われるべきでないのだ。だからこそ、人々には幸せになってほしかった。自分が救済を得られないとわかった以上、他者の幸福を祈るより他になかったのだから。
X-Y.
X-Z.
起立、気をつけ、礼。おはようございます。それではまず先週の宿題の答え合わせからやっていきましょう。呼ばれた人は前へ出てきて、黒板に答えを書いていってください。
まず1問目、怠慢とは何のことか。次に2問目、傲慢とは何のことか。3問目、無能とは何か。4問目、愛とは何か。5問目、あなたは相思相愛を信じるか。6問目、あなたにとって恋人とはいかなる存在か。
7問目、あなたは宿題を成し遂げたのか。
答えが出揃ったら丸付けをしていきます。赤ペンを用意しておいてください。