世界のCNPから

くろるろぐ

探偵小説を読んでいる

ここのところ探偵小説を読んでいる。

 

思い返すと、僕は“敢えて”探偵小説を狙って読もうとしたことがなかった。何かしらのきっかけで目に付いたようなものは読んだことがあるんだけれども、わざわざ「探偵小説を読もう」という意気込みで読んだことはなかったのだ。

と、いうわけで手を出しているところ。

 

僕はもともと夢野久作が好きなのだが、彼も「探偵小説作家」のくくりに入る。ただし、久作はオーソドックスな探偵小説の在り方……つまり、探偵がひとりいて、複数の容疑者がいて、驚くべき犯罪が起こり、探偵がその謎を解き、犯人が明るみに出る……という在り方……とは少し違う毛色の作品を書きがちであるように思う。どちらかというと、伏線に伏線を重ね、幻想を理論的に組み上げ、……というような種類であり、最後の最後にヒェーッと感嘆させられるタイプの作品が多い。

かの有名な「ドグラ・マグラ」も、やはり単純な「探偵小説」とは違っている。主人公は確かにありとあらゆる種類の謎をぶっつけられて懊悩させられるが、一般的な「多くの容疑者の中から犯人を捜す」という流れからは逸脱した謎解き物語なので、かなり独特な探偵小説であるといえる。

それでも久作は間違いなく探偵小説作家である。なぜなら久作自身が探偵小説作家を名乗っているからである。

 

久作の探偵小説への想いは、例えばこんな文章に現れている。

 

探偵小説の真使命
 

夢野久作 探偵小説の真使命 -青空文庫

探偵小説は、良心の戦慄を味う小説である。あらゆる傲慢な、功利道徳、科学文化の外観を掻き破って、そのドン底に恐れ藻掻いている昆虫のような人間性――在るか無いかわからない良心を絶大の恐怖に暴露して行く。その痛快味、深刻味、悽惨味を心ゆくまで玩味させる読物ではないか。

 

すき……。

 

久作は旧来の「探偵小説」の形式にこだわらず、「良心の戦慄」を描き上げることを目指したのだ。「ドグラ・マグラ」なんか、まさにそういう作品だ。人間そのものの根底、人間の皮を剥いで剥いで剥いだ先にあるドン底の人間性、そういうものが久作流の「探偵小説」の題材となったのだろう。

 

 

対照的に、シンプルに探偵小説として確立しているのは横溝正史だといえる。金田一耕助シリーズの人だ。

横溝の作品は、先ほど申し上げた「一般的な「多くの容疑者の中から犯人を捜す」という流れ」の探偵小説が多い。むしろ横溝正史がそういう流れの探偵小説の在り方を構築したのでは? この辺りの歴史はよくわかっていないが……

今のところ「本陣殺人事件」「犬神家の一族」「悪魔が来たりて笛を吹く」あたりの有名どころと、いくつかの短編を読んだ。大した量を読んでいないので偉そうなことは言えないが、とにかく人間ひとりひとりの個性がくっきり描かれていてそこが面白い。「そういう性格なら確かにそういうことをしそう」というような部分までトリックに組み込まれている。

また、探偵小説の花形であるトリックの華々しさも申し分ない。時間的・物理的な矛盾はなく、示された証拠を組み立てていけば犯人に辿り着ける……と、見せかけて、そうもいかない……という絶妙なバランス。ヒントはそこら中に撒き散らされているのに、なかなか答えが見えてこない。金田一耕助の推理を聞いてやっと、なるほどと膝を打つことになる。

横溝が正統派な探偵小説を愛好したゆえにそういう作品を書いたのか、それとも横溝自身が正統派を作り上げたのか、僕は浅学にして知らない。けれどもとにかく、実に正統派だと思う。

 

いま手を出しているのは小栗虫太郎である。と、聞いてピンと来ていただけるのか……? 「ドグラ・マグラ」「虚無への供物」と並んで日本三大奇書と呼ばれた「黒死館殺人事件」の作者である。

ちょうどいま、「完全犯罪」という80ページくらいの短編を読んでいる。読んでいるところだから犯人を明かさないでね。

小栗虫太郎の探偵小説は、とにかく「そんな雑学どこから出てきたの……」としか言いようのない知識アンド知識で構成されている。菱形の刺し傷は特殊な蚊に刺されたことでできたものだ? 毒物の組み合わせによって女でも男のような呻き声を発生しうる? そんなの何処で知るんだよ……、こういった嘘か本当かわからないような様々な知識が折り重なってひとつの作品となっている。

そういうわけで犯行に使われるトリックも常軌を逸しすぎているので、僕のような凡人以下の知識しか持たない人間には荷が重すぎる。「へぇー」となりながら読み進めるしかない。とはいえ、その不気味さというか異常性というか、そういうのがクセになって割と気に入っている。

 

そんな感じで僕はいま、とにかく読書に耽りまくっている。物語の世界に耽溺するのは素敵なことだ。他人と関わらなくて済むしね。

 

小栗虫太郎がひと段落したら江戸川乱歩かな、でも東野圭吾とかも押さえたいよな、などと考えている。あるいはコナン・ドイルとかアガサ・クリスティーとかを掘り進めてもいい。

とりあえず時代も国も気にしないので、オススメがあれば教えてください。