世界のCNPから

くろるろぐ

概念を対象とする下ネタは言えるけど「女の子」を相手にして下ネタを言うことはできない

久々に高校時代の連中と会った。

みんな「大人」になっていた。

 

僕は中高一貫校出身なので、「高校時代の連中」というと「青春の6年間を共に過ごした連中」ってことになってしまう。これがあまりに地獄なので(僕は他者を傷つけつづけた当時の自分をかなり恥じている)、僕はできれば「高校時代の連中」と会わない方がいいような気がしている。

みんな過去のことは何も言わないでいてくれるが、それでも僕は罪人として肩身が狭い。よく笑ってくれるなあ、ごめんな、そう思いつつ「楽しく」飯を食ってきた。こういうところが僕の最低なところだ、ごちゃごちゃ言っても何だかんだ参加してしまうのだから。

 

それはさておき。

 

参加者の1人は中高時代の僕の……悪友、でいいんだろうか? 僕がそう思っていただけか? まあ、下ネタで盛り上がる仲間の1人だった。下ネタといってもくだらないもので、マドラーを立てて男根を表現したり、「早く(席を)立って」「(店を)そろそろ出るぞ」みたいな言葉にいちいち反応してゲラゲラ笑ったり、というようなやつだ。

何だかんだ、そういう時間は楽しかった……楽しかった。ああ、この話をしようとすると死にたくなるな。まあここは今回の本題じゃないからスルーする。

 

とにかく今日、僕は確信した。

 

僕は、概念を対象とする下ネタは言えるけど「女の子」を相手にして下ネタを言うことはできないのだ、ということを。

 

 

かつての仲間氏は、酒の勢いで女の子(この人の性自認は僕も正確に把握していないので、以下脳内で「」をつけてほしい) と肩を組み始めた。まず僕にはこれができない。次に女の子に向かって、「おっぱい何カップ?」とか「短小をどう思う?」とか聞き始めた。僕はさすがにヤバイなと思って、場の空気を壊さないように笑いを交えつつマジで止めに入った。

 

止めに入っちゃうところが僕なんだな、と思った。

 

ところで僕は(自分で言うのも妙だけど)人の表情を見るのが好きで、「笑っているけど本当は嫌がっている」場合と「笑っているけど本当は嫌がっているように見せかけて喜んでいる」場合とを見分けることができる……と思う、たぶん。

そして、他者の心は絶対に把握できない理解できないものだけれど、一瞬の表情に浮かぶ感情というのは少なくとも「その一瞬の感情」の片鱗を示しているんじゃないかな、と思う、たぶん。

 

で、その僕の目から見た限り、セクハラ発言を受けた女の子は、まあ、別に嫌がっていなかった。

それどころか嬉々として「Eカップ」と答えていた(ちなみに僕は知り合いのこういうのを聞いちゃうと恥ずかしくなっちゃうタイプなのでしんどかった)。

 

まあ端的にいうと、嫌がっていなかったんだ。嫌がらせていなかったんだ。

距離感、空気感、今までに築いてきた信用? 雰囲気? 好感度? ……? その女の子は別に遊び人タイプの女の子ではない(と思う……僕が知る限りは)。けども、別に嫌がっていなかった。

 

つまりさ、いいんだよ、「女の子」の「女性性」を突くような言葉が必ずしも相手を傷つけるとは限らないんだ、たぶん。「男の子」の「男性性」を突くのだって同様なのかもしれない、もしかしたら。どちらでもない/どちらでもある、そんな在り方に対して突っつくのも、あるいは。

本当に上手くやった場合、そういう言葉も「あり」なんだ、おそらく。

ただ「本当に上手くやった場合」というのが大事で、僕みたいなのとか、勘違いしたおっさんとか、性犯罪者とか、そういうのは「本当に上手く」やっていないんだと思う、きっと。「本当に上手く」やれる場合ってのは限られている。仲が良くて、こいつならまあいつものことでしょ〜で済んで、互いに傷つけ合っていないことがハッキリしていて、互いに信用していて、そういう場合じゃなきゃダメなんだ。僕は目の前で肩を抱かれる女の子を見ながらぼーっと意識を揺蕩わせていた。

 

冷静に考えてこれは難しいことだ、だって目の前にいる「女性」の体を持った人間が本当に「女」かどうかなんてどうやって判断するっていうんだろう。何の気なしに発した「おっぱい何カップ?」が、大小の問題を超えたもっと根深いところへ刺さるかもしれない。

だから本当なら、いま目の前にいる人間が「女」であると確実に理解し、その「女」にはここまで言ってよいという線引きを即座に把握し、タイミング、時間帯、「それでも嫌がらせるかもしれない発言なんだぞ」という自覚、全てを考慮した上で「おっぱい何カップ?」を発さなきゃいけないわけなんだ。それが「本当に上手くやった場合」なんだ。

 

お前のその下ネタは「本当に上手く」やれたのか?

 

「上手く」やれていたんだな。

さっきのは。

 

よかったじゃないの。

 

 

 

まあ僕は、たとえ全ての条件が揃ったとしても彼と同じようには振る舞えないだろう。

(ちなみに僕は知り合いのこういうのを聞いちゃうと恥ずかしくなっちゃうタイプなのでしんどかった)。

この理由で。

 

 

(・ω<)

 

ちなみにそいつは最終的に、ベロンベロンに酔って支離滅裂になり(女の子にカップ数を聞いた直後「俺もうすぐ引っ越すんだよ」と言い出すなどしていた)、女の子たちに引きずられて帰っていった。僕はそれを改札のこちら側で見送り、踵を返して帰路に着いた。

 

 

 

 

改札の向こう側とこちら側。階段の上と下。処女膜の奥と手前。

 

みんな「大人」になっていた。

僕だけが灰を被ったままだ。