世界のCNPから

くろるろぐ

先輩も上司もインフルエンザに罹患して休んだので、僕はひとり作業を続けていた。終業のチャイムが鳴って、それでも作業していた。まもなく20時になります、それでも帰らなかった。まもなく22時です、22時以降は深夜残業になります、そんなアナウンスを耳にしてやっと帰路に着いた。

 

なんでこんなことしたんだろう。

 

僕のいるところは良心的な会社なので、繁忙期以外はとっとと帰ることを許されている。むしろ社員に残業ばかりされると会社の予算が逼迫するので(中小企業の悲しいところだ)、できるだけ定時に上がることを推奨されている。加えて僕は新人でもあるから、普段は誰よりも早く帰らされている。

 

そんな僕が、先輩のいなくなった隙をついて長々と残業したのは一体どういうつもりだったのか。

 

ついさっきまで僕は泣きそうになっていた、残業代は出るものの何だか時間を無駄にしたような気がしたので。けれどこうして文章を書きはじめたら落ち着いた、ガラガラを与えられた赤ん坊みたいに。

 

落ち着いたついでに考えてみるのは、僕が時折やってしまうこうした衝動的な無茶のことで、いくつか答えらしきものを掴んだり離したりしつつ未だこれという解答を得ていない自問自答のことなのだが。

 

いくつか。

 

1.キリの悪さに耐えられない

もうちょっとやれば片付く、というのをそのままにして帰るのがいつもストレスになっていたので今日はそういうのをチマチマやっていた。本当は何もかも完成させて提出して僕が明日いきなり消えてもどうにかなるようにするのが好きだ。まあ、何も完成させていなくても僕がいなくなったところで回らなくなることはないんだけれども。

 

2.相変わらずキレやすいだけ

薬で抑えていなかったころの僕はキレると周りが見えなくなって暴れたり叫んだりしていた(イキリじゃないんだよ)(でも改めて文章として見てみるとすごくイキリっぽい状態だ)(DQNを殴り倒して血まみれにしたことがないのが惜しいところ)。そういう衝動が建設的(?)な方……まあ少なくとも給料になる方へ向いた結果、こうしてガンガン働いてしまうのかもしれない。怒気とよく似た衝動。周りが見えない、すなわち時計も進捗も、自分の体力の限界さえも見えない。

 

3.働くのが好き

そんなわけないだろ、と言おうとしたが思いなおした。僕は「楽しいことをして人の役に立ってその結果としてカネをもらう」という形式がわりと好きな方だ、というのは前にも話したように思う。だから僕は労働の全てを忌み嫌ってはいないのだ。と言いつつ、僕は今の自分に与えられている作業をあまり楽しんでいないので、やっぱり今日の僕は変なスイッチが入ってしまったのだと言うしかない。

まあ楽しんではいないが、賞賛と昇給を欲してはいるので、すなわち「変なスイッチ」を入れるに足るキッカケはある。しかし僕は他の同期より努力していないかもしれない、そういう慢心を見抜かれているかもしれない、だから望むほどの報酬は得られないかもしれない、……と、そこまで認識していながらそれでも「変なスイッチ」を入れられるというのは不思議なものだ、僕は期待を捨てられていないんだろう。

 

4.何もしていない瞬間が怖い

時間を無駄にすること・「やらなかった後悔」・この時間で何かできるはずなのにという空隙、僕はそういうのの扱いが時たま極端に下手になるので、それが仕事のタイミングで襲いかかってくるとこうして残業の形で出てくるし、休日のタイミングで湧き起こってくるといきなり海へ出かけてしまうんじゃないだろうか。何かに打ち込んでいる間は怖いことを思い出さなくてすむ、そうやって目を逸らしたいのではないだろうか。

ここのところ昔以上にじっとしていることができなくなった。何かに責められているようで落ち着かない。「何か」は自分自身であることもあれば家族であることもあるし、僕の妄想が作り上げた「他者」であることもある。

 

どれもこれも模範解答であるように思えるし、あっちもそっちも大外れであるような気がする。ただ感覚としてはっきりわかるのは、今の僕は「働き者の偉い人」ではないってことだ。なんかがおかしい、うまく言えないけれども、なんかがおかしい。何か重大なことを忘れているような気がする、或いは、何か強大なものから逃げているような気がする。メロスは何のために走ったのか?

 

ふう。

 

少し頭冷やそうか。

ところで僕の知り合いたちは僕が「ふう」って言うと大抵「いきなり射精をするな」と返してくる。そういうテンポの良さというのは会話において大事なものだと思う。

 

 

閑話休題

 

僕は帰らなかったんじゃなくて帰れなかったのかもしれない。帰り方が分からなかった。僕はたまに呼吸の仕方すら忘れてしまうことがあるので(「吸ったあとに吐く」という感覚が上手く取り戻せなくなってしばらく意識的に深呼吸してしまうんだけど、意識的に呼吸すればするほど自然な呼吸のやり方を思い出せなくなる、過呼吸の一種なんだろうか)、「家への帰り方」という記憶がいきなりスコンと抜けてしまうことだってありうる。記憶というよりは感覚か。

RPGで「たたかう にげる アイテム」と並んでいるのが見えているのに、「にげる」を選ぶ方法が分からない、十字キーでカーソルを移動させてからAボタンを押さなきゃいけないのにそれが感覚として蘇ってこないせいで馬鹿みたいにAボタンを連打してしまっていて、ああもうヤバイって分かってんのにどうすりゃいいんだこれ……というような感じなんだ。適当を、言っている。

 

1時間ちょい、これで2000字、こうやって言葉が纏まらずに奔流となって暴れるのも何だか嫌な感じだ。いや、いい感じなんだけどね。何も出ないよりは。文系としては。

 

僕はインフルエンザにはかからなかったけど何か違うものをもらってきたのかもしれない。リレンザみたいなやつはないんですか?

 

ちゃんと帰れたよ。