世界のCNPから

くろるろぐ

だから兄貴、俺だけは風俗に行かないって決意するのもそれはそれでいいと思いますよ

「この結果でブログを書いてくれ」との要請を受けたので、のんびり捻り出そうと思う。

 

風俗、その現代における利用率について、兄貴はご興味をお持ちになったとのことだ。

曰く、“職場の人間がいつも風俗談義をしているので、半ば呆れているとともに、世の人々というのはそんなにも風俗へ通っているものなのかと驚かされている。自分の職場が特殊なのか、それとも世の中ではそれが一般的なのか、確認しておきたい”とのことだった。

 

そして結果は冒頭の通り、まあ半々くらい、やや「行かない」派が多い、という形だった。

兄貴の職場の人間は「いつも風俗談義をしている」とのことだったが、それはやはり職場の毛色なのかもしれない。

 

……と、言うこともできるが。

 

より踏み込んで考えるなら、このアンケートだけでは物足りない、と僕は感じた。なぜ兄貴の周囲には性風俗店愛好家が多いのか? なぜツイッターで聞いてみるとそれほど多くなかったのか? そういう「なぜ」まで考えていくとなると、最大でも4択しか設定できないツイッターアンケートでは限界がありそうだ。

 

まず、「風俗」の定義が曖昧だというのがある。

おそらく兄貴がおっしゃりたかったのは「性風俗店」、特に性行為を目当てとするタイプの店舗のことだと思われるが……。

 

せいふうぞく‐てん【性風俗店】
性的なサービスを行う店。ソープランドファッションヘルスなど。風俗店。

(参考 : 性風俗店(セイフウゾクテン)とは - コトバンク )

 

兄貴の言い回し通り「風俗にあたるもの」と考えた場合、もう少し広い意味で捉えられるかもしれない、とか。

 

ふうぞく‐てん【風俗店】

異性による接客や性的なサービスを提供する店の総称。

(参考: 風俗店(フウゾクテン)とは - コトバンク )

 

というか、もっと言うなら、「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」に定められている店舗であれば「風俗」と呼びうるわけで……。

 

昭和二十三年法律第百二十二号
風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律

 

第二条 この法律において「風俗営業」とは、次の各号のいずれかに該当する営業をいう。
一 キヤバレー、待合、料理店、カフエーその他設備を設けて客の接待をして客に遊興又は飲食をさせる営業
二 喫茶店、バーその他設備を設けて客に飲食をさせる営業で、国家公安委員会規則で定めるところにより計つた営業所内の照度を十ルクス以下として営むもの(前号に該当する営業として営むものを除く。)
三 喫茶店、バーその他設備を設けて客に飲食をさせる営業で、他から見通すことが困難であり、かつ、その広さが五平方メートル以下である客席を設けて営むもの
四 まあじやん屋、ぱちんこ屋その他設備を設けて客に射幸心をそそるおそれのある遊技をさせる営業
五 スロットマシン、テレビゲーム機その他の遊技設備で本来の用途以外の用途として射幸心をそそるおそれのある遊技に用いることができるもの(国家公安委員会規則で定めるものに限る。)を備える店舗その他これに類する区画された施設(旅館業その他の営業の用に供し、又はこれに随伴する施設で政令で定めるものを除く。)において当該遊技設備により客に遊技をさせる営業(前号に該当する営業を除く。)

(参考:e-Gov法令検索 )

 

このあたり、はっきり絞った方がより的を射たアンケートになりそうだと思った。

まあ、おそらく文脈で「風俗」といえば「性風俗店」だと伝わるだろうから、そこまで騒ぐことでもないが。

 

そして、対象が不透明かつ広域すぎるわりに回答数が少ない。

こういう不特定多数へ向けて発するアンケートの場合、対象のステータス……例えば「年代」「性別(性自認)」「国籍」「居住地」あたり……も聞いておかないと、対象が曖昧になってしまいかねない。どういう人間の回答によってこの結果が弾き出されたのか、ということを合わせて考えないと、統計として甘くなってしまうような気がする。

そういった「対象」を気にせず、敢えてフラットな聞き方をしたかったのだとすれば、75億人くらいに聞けたらよかったかもしれない。「地球人口の何割が性風俗店への来店経験を持つ」という統計結果は逆に有意義なものになりそう(?)

 

(僕は大学で本当に少しだけ統計学をかじったけれど、アンケート対象というのは適当に数を増やせばいいというものでもなく、いかに上手いことバラけさせるか、意味のあるサンプルを抽出するかというところが大事らしい。となると、同じ61人でももっといろんな界隈に届いていたら色々と変わったかもしれない。)

 

また、「行く理由」「行かない理由」が見えないので、「意外と○○だったな」以上のことは憶測で語らざるをえない。

例えば金持ちの場合は娯楽で行くかもしれない。若者の場合はストレス発散かもしれない。上司に連れられて行くのかもしれないし、暇だったから足を向けてみたということもあるかもしれない。

あとは来店の回数も気になる。「何度も行く理由」「一度で辞めた理由」「絶対に一度たりとも行きたくない理由」、それぞれ十人十色の事情があるだろうし、それらをこのアンケート結果から読み取ることはできそうもない。そうすると、「なぜ」を突き詰めることは難しいかもしれない。

とはいえ、「思ったより多かったな」「予想より少なかったな」という感覚を掴めたという点で意義のあるアンケートだったと思う。ここからさらに深めていくなら、また新たに調査が必要だろうけれど。

 

 

ちなみに、似たような調査をしたネットの記事も少しだけ紹介したい。

しかしこの手の話題の記事を書く人たちというのは半笑いで書いている感じがする。例えば、いくつかの記事に「風俗店の利用率について国が調査したこともあるんです」という言説を見つけたものの、その原典が書かれていないのである。ソースも出さないで何がメディアだ!

 

やや実直そうなデータとして「社会実情データ図録」( 図録▽主要国の性行動比較 )という研究者のサイトを見つけた……のだが、残念ながら中身は1999年のものだった。しかも「性風俗」とはズレる話題かもしれない。

 

新しめのものでいくつか。

※ネットニュースなのであまり好まない人は読まなくていいと思います。一応ざっと読んで不快感の少ないものだけ選びました。

 

独自調査なのでまぁ多少アレだけれど、年代別の結果なども出ていて興味深い。

性風俗店に行く男性の割合を調査 頻繁に通う20代に対して上の世代は意外な結果に – ニュースサイトしらべぇ

まず、「ほとんど行かない」と答えた人は56.0%。「あまり行かない」と回答した人を含めて4割強は、風俗を経験しているということになる。

また、頻繁に通っているグループは5〜6%台と少ないが、「たまに行く」と答えた人は2割弱。やはり、少なからぬ男性にとって身近な存在であることは疑いがない。

「よく行く」と答えた人は20代男性でもっとも多く、13.3%。30代になると半減し、40代以降は2%台にとどまる。

 

男性の夜の実態。風俗へ行ったことがある男性は●●%

半数以上の男性が風俗店には行ったことがないという結果となりました。
高額なうえに、病気がうつるリスクもあるため敬遠している男性が多い様子。

基本的には性欲を満たすという意味で利用している方が多い様子。
みなさん、それぞれで様々な経験を重ねているようですね。

 

と、こんな感じ。

色々と眺めてみたが結局、多くのサイトで「行ったことのない人が6割、行ったことのある人が4割」という結論を叩き出している。

そして僕は、冒頭の兄貴のアンケートから「ある」or「ない」だけ引っ張り出した場合の結果もだいたいこのくらいだということに気づいた。

 ある:15.25人(約36.2%)

 ない:26.84人(約63.7%)

 

まあ、つまり「一般」の縮図をまあまあ表現できてはいたということだ。

ただこれで「兄貴の職場は異常」として終わりにするのはもったいないような気がする。なぜ兄貴の職場では比率が逆転しているのか? 地域差? 職業差? そういうのも、また別枠で調べたら面白そうだと思った。

 

また、兄貴は何の気なしに「女」をアンケートから外してらっしゃるが、僕はここも調査してみたらいいんじゃないかと思った。

かの有名なTENGAが「iroha」という女性器向け性具を販売していることはよく知られている。

iroha(イロハ)ブランド公式サイト

「オナニー」を「セルフプレジャー」と言い換え、「気持ちよくなること」を恥じる必要はないのだと訴えたTENGAの功績は大きい。性欲文化はこれからもっと多様に花開いていいのだ。

まあ何が言いたいかというと、今の時代、性別に囚われない世の中になってきていることだし、「男性」以外向け、「異性愛者」以外向け、の性風俗店についても考えていけそうだなと、そんなことを思ったわけで。せっかくだからそういうのも知っていきたいと思った。

 

 

ところで、ウィキペディアにはこんな項目がある。

風俗店の歴史 - Wikipedia

日本には古くから様々な業態の「性的なサービス」提供店が存在していたのだと、この項目数を見ただけでも把握できる。

 

しかし、警察庁が公開している「平成30年における風俗営業等の現状と風俗関係事犯の取締り状況等について」( 風俗関係事犯|警察庁Webサイト )によれば現在、

 

4 性風俗関連特殊営業の届出数(営業所数等)の推移
過去5年間の性風俗関連特殊営業(店舗型性風俗特殊営業・無店舗型性風俗特殊営業 ・映像送信型性風俗特殊営業・電話異性紹介営業)の届出数(営業所数)は、(中略)横ばい状態にある。
平成30年末の性風俗関連特殊営業の届出数は3万1,925件で、前年より159件(0.5%) 減少した。

 

性風俗店は横ばい(やや減少)という傾向にあるらしい。「無店舗型性風俗特殊営業」だけは年々増加しているのだが(店舗型性風俗特殊営業は規定が厳しいこと、店舗型を新規に設立するのは法律上かなり難しくなっていること、自分で店舗に出向くよりも相手を呼びつける方が現代のニーズにあっていること、あたりが原因なんじゃないかと思う)、それ以外の営業形態については衰退の一途を辿っているようだ。

 

さらに、兄貴がご興味をお持ちになった「性風俗店」とはまた別種類だが、「接待飲食等営業」「深夜酒類提供飲食店営業」などのいわゆるキャバクラ・ガールズバーといった風俗営業店も減少傾向にあるらしい。こうした商売もだんだん廃れていくのだろうか。

 

僕個人としては、「店員が仕事に誇りを持ち、客が利用を心待ちにしている、それらが両立しているならば衰退しない方がいい」という気持ちでいる。嫌々働いているなら辞めてしまっていい、来たくないのに通っているなら来なくていい。けれど、働きたい人がいて、利用したい人がいて、誰にも迷惑をかけずにやっていくというのなら、それは「文化」として息づいていていいものだと思う。

 

むろん、性の問題は複雑だ。何から何まで複雑だ。「同意の上」なんて、誰が判断できようか? 心身が傷つくリスクを背負ってまでどうしても味わわなければならないほどの快楽か? 「禁止」、それ以上に簡単な解決策があろうか?

それでも、性欲文化はありとあらゆる時代で廃れなかった、誰にも抑圧しきれなかった……だからきっと、今後もどんな形であれ続くだろう。「風俗に行く」という形を失ったとしても。

 

だから兄貴、俺だけは風俗に行かないって決意するのもそれはそれでいいと思いますよ。