世界のCNPから

くろるろぐ

パラグライダー

土曜日、高校時代の知り合いたちに呼び出されて食事を共にした。五年も十年も前に離れ離れとなった知り合いたちの名が次々と話題にのぼり、僕の中でとっくに風化していたはずの記憶が無理やり元の形を取り戻していった。花は散ることによってむしろ咲いていた頃の姿を人の心へ焼き付けるものだ。黄金時代という言葉はいつだって過ぎ去った昔に対して使われるものだ。僕は、苦しかった。

 

学年で最も目立っていた男はエチオピアに渡り、本を出したらしい。クラスのマドンナは当時の彼氏ととっくに別れ、僕らのうちの誰も知らない誰かとデキ婚したらしい。プログラミングの天才だった男はGoogleに就職できそうだったところを蹴ったらしい。当時なら僕より成績の悪かったはずの人々が東大や京大の大学院で活躍しているらしい。

 

 

誘ってくれた知り合いのうちひとりは自分も望む仕事に就けたわけではないといい、プライベートが充実していれば仕事は金を稼ぐためのものだと割り切ることもできると僕を慰めた。彼は休日になるとダイビングだのサバゲーだのと楽しく過ごしているらしい。

 

明日はパラグライダーをやるから来ないか。

 

彼がそう言ったとき、僕は危うく泣くところだった。何も考えていない僕なら二つ返事で乗ったはずなのだ。僕はあらゆることを考え、そして断った。

 

酔生夢死。酔うように生き、夢みるように死ぬ。それこそ今しかないと思った、しかし僕は生き延びてしまった。最も迷惑な、最も汚らしい生存だと思った。醜い感情を抱きたくなかった、ともかく消えてしまいたいと思った。誰のことも恨みたくなかった。