世界のCNPから

くろるろぐ

二日酔い

泥酔を主原因とする不調が未だ抜けきらない体に鞭打って、僕は夜道を散歩しに出掛けた。本当なら凡そ十二時間前には遊びに出掛けるつもりだったのだが、平常であれば動くはずの体が今朝方はまったく言うことを聞いてくれなかったのだ。仕方なしに日中をだらだら寝て過ごし、そして現在に至る。

 

頭痛に夜風が気持ちいい。苦味と甘味の入り混じった記憶が一歩歩むごとに脳裏で揺らめく。

 

ああ生きている。

 

美酒に溺れれば二日酔いに悩まされるのは当然の理だ。わかっていて貪ったのは僕である。杯を差し出した連中は頻りに謝ってくれるけれど、はっきり言おう、その必要はない。悪いのはあくまで僕であり、僕だけなのだから。

 

酩酊の感覚は実に危険である。僕はあのとき、確かに日頃の悪夢を忘れた。自分でも気付いていなかった飢餓から一気に解放された。肉体が燃え、精神が融けた。このまま死んでも構わないとさえ思った。死してこの快楽を永遠にしてしまおうと考えた。

 

目を覚ました僕が最初に抱いたのは悔恨と反省、そして寂寞の念だった。一方でその中に僕は、自傷行為にのみ伴いうる独特な愉悦を見出してもいた。

期待は失望を生み、獲得は喪失を伴う。桜はいつか散る、花火はいつか消える、紅葉はいつか枯れる、雪はいつか溶ける、酔いはいずれ醒める、宴はいずれ閉じる、愛はいずれ薄れる、人はいずれ死ぬ。サイコー。

 

ああ。

 

僕は立ち上がらなければいけない、歩かなければいけない。麻薬に溺れてはいけない、悦楽を求めてはいけない。……言い聞かせれば言い聞かせるほど僕の脳髄は絶頂を求めて暴れ出し、僕から思考能力を奪おうとする。ぐちゃぐちゃの記憶の中から都合のいいところばかり繋ぎ合わせて作られた映画が脳内で上映される。

 

目の前に御馳走があるのに、それを退けて質素な食材を自分で料理しようと考えることができるか?