世界のCNPから

くろるろぐ

きらきら

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缶入りの日本酒を飲みながら歩いた、曇天の夜だった。一人ということを考えた、死ということを考えた。偶然にも帰路にはお誂え向きの踏切なんかがあった、しかも僕は直前に楽しげな人々の群れを見ていた。きらきら。星のない夜に、街灯だのヘッドライトだのが星の代わりを果たしていた。酔った眼が光を拡散して、人工の星は天然の星よりも強く光った。きらきら、きらきら。

踏切特有の、誘うような音が聞こえた。朱い光が催眠術師のコインめいて左右に揺れた。あなたはだんだん眠くなる、そしてみっつ数えるとあなたは線路に飛び込む、……、などと。

水分を含んだ風が吹いた、背後から聞こえてくる足音が怖くて、怖くて、眼前を駆けてゆく電車の硬さが恐くて、恐くて、催眠術師の舌打ちを聞き流した、朱い光は消えた、静寂が訪れた、踏切の棒が高く高く、旗か何かのように誇らしげに上がっていくのを見た。手の中の缶が日本酒の音を立てた、曇天の夜だった。