さよなら古き夢よ
さよなら古き夢よ。
— Te.年始クロル (@_CNP_) 2022年1月7日
結婚はできない、と、あの子は繰り返した。
かまわない、と、僕ははっきり答えた。
それですべてが解決した。
恋人氏には姉がいる。その姉が、「ずっと男性を見下してきたにもかかわらず三十路になって婚活を始めた」ことを、恋人氏は醜いと感じたらしい。
自分はああなりたくないし、あなたにもそうなってほしくない。
自分は結婚しないことを固く決意している。あなたは他に相手を探して家庭を築くとよい。
これ以上あなたの時間を奪いたくはない。
それが恋人氏の主張だった。
「じゃあ僕のことは嫌いになった?」
「そうじゃないけど……」
「ならいいよ。僕もね、結婚にはこだわってないんだ、もう」
「……」
「仕事も回るようになってきた。資格の勉強やら小説の執筆やら、やりたいこともたくさんある。それに、結婚って目的じゃなくて手段だからさ。あなたと一緒にいることが大事なのであって、結婚が大事なわけじゃない。形なんてどうだっていいんだよ」
一気に喋る僕は、不自然ではなかっただろうか?
「……信じていいんだね?」
「もちろん」
「じゃあ、もう遠慮なく好きでいるからね」
「……」
恋人氏は、「結婚にこだわっているだろう僕がいつでも自分から離れていけるように」というつもりで、今まで「遠慮」してきたのだと言った。
僕を好きでいることを。あるいは、それを示すことを。
ここにすべてが解決した。恋人氏の冷徹な態度にも、意地悪な言動にも、それでいて遊んでいるときは心から楽しそうであったことにも、すべて説明がついた。
僕には何も見えていなかったのだということが、ここへきてよくわかった。
今度こそ、僕の人生はここで一区切りとなった。あとは、今あるものを磨いたり汚したりしながら生き長らえればいい。
ほとんど何もない僕の人生の中で、今あるものだけを。
さよなら古き夢よ。もう見てはならない夢よ。