世界のCNPから

くろるろぐ

めりー☆せっくすます2019

「はいっ! はいっ! はいっ! はいはいっ! わん! ちゅー! ひうぃごー! らぶらぶ! ちゅっちゅ♪」

 

高校時代の仲間とのクリスマス会も、大学時代からの恩師とのドライブも、曖昧な言葉で断った。「わたくしなりの矜恃ですわ」なんて悪ふざけ一言で僕の言いたいことを汲んでくれるあたり、彼らは信頼のおける連中だと思った。

 

「はいっ! はいっ! はいっ! はいはいっ! めりー! めりー! くりすます! fu〜♪」

 

わざと残業した。ウイスキーと日本酒とワインとを買った。9%のチューハイは、悩みつつも避けた。今日という日を、酔い潰れて一瞬で終えてしまうのは惜しいと思った。

パーラメントのクリスタルブラスト、ラーク、どちらも友人たちとの思い出が深すぎるので避けて、唯一自分の意思で気に入ったアメスピメンソールライトを選んだ。

 

聖夜。我が恋人は仕事で出張とのことだった。

 

外は洒落にならないほど寒かったので、ウイスキーで暖をとった。ちなみに酒は体表に熱を集めて体の芯を冷やすので、遭難したとき迂闊な飲み方をするのは間違いだとのこと。しかし人生遭難中の僕としては、もうここまできたら間違ってでも酔うしかないという気持ちもわかるのだった。

 

一緒に住もう。家賃は折半すればここよりずっといいところに住めるはずだ。風呂もユニットバスじゃなくてちゃんとした湯船にできると思うし、このクソ狭い台所も広くできると思う。僕らは仕事場も近いから、このあたりで住んだほうが何かと便利でもある。

子どもは欲しくないならいなくてもいい。欲しいというなら何人でも作ろう。全員を育てきれるくらいの稼ぎは得てみせる。そうじゃなければ、僕らの暮らしを豊かにするのに使おう。立派な車を買おう。今のところ僕は免許を持っていないけれど、これから取ることにする。休みの日にはドライブに行こう。たまには旅行もしよう。美味しいものを食べに行こう。

結婚しよう。結婚しよう。きっと君を幸せにする。実は十年前から決めていたことなんだ。

僕と結婚してください。

 

これだけ言ってダメだったんだもんな、と僕は自嘲しながら半笑いで酒を煽った。喫煙所はスレたオッサンとカップルと僕とに占拠されていた。あ、僕もスレたオッサンか。もう二十五だし。慣れない煙草が喉に痛かった。寒くて眠くて、でも帰りたくはなかった。

 

僕は自分を好いてくれる人間に命懸けで報いたかった。裏を返せば、自分を好いていない人間に余計なことをしたくなかった。僕は人間関係を失敗しやすい性質だから、そのあたり慎重にやりたかった。大事な人間を失うことが何よりも怖かった。

 

たとえばあるとき、僕にはこの子の気持ちがわからない、と思いながら隣で無防備に眠る恋人の寝顔を眺めていたら、恋人は寝ぼけたまま僕に絡みつき、うぅと声をあげ、それから目を開けてふへぇと笑った。あ、と思った。

またあるときは、仕事で失敗したので話を聞いてほしいと言って呼んでくれたこともあった、これをやると僕は父親にひどく叱られるのであまりやりたくないのだけれども、そこは腹を括って会いに行った。一緒に住めばいつでも会えるのだがと言うと、恋人は曖昧に笑った。

 

わかんねえなぁ、と僕は思った。本来、恋人が煙草を毛嫌いしているので僕は吸わないのだけれど、それを敢えて吸うのは大抵、人付き合いのためでなければ、当て付けのためなのだった。ほっとくと僕のキス、苦くなっちゃうけどいいんですか? ……これはさすがに気持ち悪いので却下。

 

「私のことを好きならそばにいてくれていい。私のことが嫌になったり、私に飽きたり、他の人を好きになったりしたら、離れてくれていい。好きに選んでくれていい」、恋人の姿勢はずっとこれで、いや正確には僕のメンヘラが最も厳しかったころ以来ずっとこれで、つまり僕が手を離せば最後で、僕が追わなければ終わりで、それは簡単なことで、怖かった。

 

僕が他者のくれるわかりやすい愛情表現にすぐ息を詰まらせてしまうのは、……なんてこれは言い訳だ。追うよりも追われる方が、惚れるよりも惚れられる方が、いつだって楽なのは確かだけれど。

 

帰るのが面倒になって、昨夜は実をいうと外泊した。僕はひとりでいたかった。同時に、煌々とした街並みを離れるのも寂しいような気がした。こういう日があってもいいと思いたかった。

 

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By 父親。

 

僕は物件探しのアプリを入れた。