石になりたい

生まれ変わったら石になりたい。

あまり大きな石でなくていい。けれど、できれば子どもたちが川で水切り遊びをするのに使いたがることのない、かといって石燈籠職人が材料にしたがるわけでもない、ほどほどの大きさの、歪で無難な石がいい。苔むしているとなおいい。快適な木陰で、置かれた場所から動かされることもなく、ただじっと人々の往来を眺めながら在れたらいい。

あるいはリサイクルショップの片隅で眠っている年代物の置物。もしくは神社の立派な松の木の反対側に立っている知らない木。そうでなければ洋装品店のショーウィンドウからいつまでも消えない流行遅れのコート。または有名な公園より一本奥の道を行くと現れる誰にも知られていない公園。人間の転生先としてそのあたりが許されるのなら、そういうのでもいい。

目を瞑る。耳を塞ぐ。鼻をつまむ。口を閉じる。心臓の音がうるさくなって、死にそこなう。ここまでがワンセット。目を瞑る。LINEの通知音が聞こえて、目を開ける。ヒトは生きていくにあたって、酸素のほかにも多くのものを吸っている。

自殺をする生物は地球上において人間だけだと、何かで聞いたことがある。記憶違いかもしれない。そう思うことで自殺を高尚なものとして捉えたいだけかもしれない。それでも構わない、と思う。生まれ変わって石になろう。苔むした歪な石に。それが叶うのなら、ヒトとしての現世にさしたる未練もない。そんなことを嘯いて、笑えば、君はきっと顔を歪めるだろう。

Aがある。Bがある。AからBに線を引く。Cがある。DとEとが隣り合っている。AからDに線を引く。Cが哀れなので、CとEとを線で結ぶ。Aを消そうとしても、線が邪魔をして消えない。AとCとの間にも線が引かれる。CとEとの間の線はいつのまにか二重線になっている。破線。曲線。DとEとの距離を遠ざけて、間にFを挟む。

“your happiness is my happiness so i hope you will keep smiling forever.” i said  from the bottom of my heart.

生まれ変わったら石になりたい。あまり大きな石でなくていい。