世界のCNPから

くろるろぐ

駅構内の、人々の導線を外れた吹き溜りのような場所に、ひと組の男女が抱き合いながら立っていた。絡み合ったそれはひとつの生きた塊のようだった。それが睦み合うように左右に揺れるたび、おそらくどちらかの体が近くの壁にぶつかっているために、かちんかちんと音を立てていた。僕は酔った頭で、羨ましい、と思った。人前で抱きしめ合うという行為が、ではなく、見せびらかすのに躊躇しなくて済む愛が、羨ましかった。

 

風呂に入ってくるといって立ち上がった僕に、あの子は、行かないで、と言って微笑んだ。その言葉を、もっと早いうちに、もっと違う形で、聞いてみたかった。黙ったまま頽れた僕に、あの子は笑いながら、ちょろいなぁと吐き捨てて、ベタついたままの僕の頭に触った。そういうことをするなら、そういうことをするなりの、

 

なんて、思うから、僕はなんにも得られない。