世界のCNPから

くろるろぐ

谷折り線に従って折ると同じ主題の段落が重なる文章

仕事を終えて外へ出ると、足下の地面がじっとり濡れていた。思わず笑った。また雨に打たれずに済んだらしかった。雨雲には、いつも嫌われていた。

 

電車の中で、ひとり酒盛りをしている男がいた。彼は座席を四人分にわたって占領して、肴を広げ、缶チューハイを絶え間なく飲みつづけていた。眺めていると泣きたくなってくるような、色のない光景だった。

 

そんなに遅い時間でもないのに、駅のホームは不思議と空いていた。何故だろうとしばらく考えて、ここのところずっと世間を騒がせている疫病のことを思い出した。愛される権利のある人たちは、もうとっくに家へ帰っていたのだった。

 

今日とそっくりの明日が来る。明日とそっくりの明後日が来る。

 

-----谷折り-----

 

それなのに、幸せだったかつての日々とそっくりの今日はいつまで経っても来ない。

 

マスクをした人々が足早に歩いていた。いつもなら活気に満ちているはずの駅も、ひとけがなく、どこか湿っぽくて、沈んでいた。雨のせいばかりではないだろうと思った。簡単な算数だった。すべての群衆から、愛する人と一緒に家へ引きこもっていられる人間を引くと、我々が残るのだ。

 

電車内で酒に溺れる勇気はなかったから、窓を見ていた。窓は夜めいた黒でほとんど塗りつぶされていて、外の景色よりも自分の顔の方がよく見えた。さっきの酒盛り男と同じ色をした、濁った眼がこちらを見ていた。

 

電車を降りて外へ出ると、地元の地面も湿っていた。道ゆく人々がみんな濡れた傘を片手に歩いていくのに、自分だけ一度も雨を受けないままでいるのは、なんだか仲間外れにされたようだった。