世界のCNPから

くろるろぐ

卒業の季節

桜の蕾が膨らみ、股間の蕾も膨らむ、春。

卒業の季節だ。

 

かつて同じ童貞として笑いあったはずの学友どもや後輩どもが、いつのまにか童貞を卒業していく。そしてどういうわけか彼らは、“卒業”を果たすと卒業証書を僕のもとへ見せびらかしにくる。そこに書かれている文言は実に種々様々だ。初めての恋人と自室のベッドで、先輩と飲みにいった流れで、……等々。猥褻な薄桃色の卒業証書からは甘ったるい香りがする。僕は謹んでその文面に目を落とし、香りを楽しみ、そして「卒業おめでとう」と微笑む。それ以上の祝辞は必要ないだろう。童貞を喪失した彼らは「非童貞である自分」そのものを祝福として味わい、すでに充分すぎるほど陶酔しているのだ。

 

さて。

数時間ほど前、そういう旧友のひとりから連絡がきた。つい先日、童貞卒業を報告してくれた人だ。「またラブホへ行くから知りたいことがあったら聞いてくれ」、と彼は言った。「また」、とは。

僕は苦笑しながら、羽ばたいていった彼のことを考えた。少し寂しいような、何だか笑ってしまうような、不思議な感覚が我が身を包んだ。僕はのんびりと穏やかな気持ちで、「とにかく部屋中のアダルトグッズの写真を撮って送ってくれ、今すぐ送ってくれ早く送ってくれ」と返信した。彼は「いやまだ仕事中だから、会うの22時からだから」と冷静な切り返しを見せた。

 

22時。

 

彼は真面目な人だから、22時に待ち合わせといっても10分前には到着していただろう。大事な恋人のことを思いながら待ち合わせ場所でネクタイでも締め直していたかもしれない。やがて彼の恋人が現れ、彼の手を颯爽と握る。「性行為を予感する恋人同士の間に流れる空気」は他のあらゆる状況で流れるどんな空気とも違う湿度と質感とを持つ。「どんぶらこ どんぶらこ」という擬態語が「川を流れる桃」に対してしか使えないのと同じように。

 

晴れやかなるかな。

彼には幸せになる権利がある。

 

「俺はあの子を愛している。あの子が俺を忘れても、俺はあの子を忘れない。いくらでも待てる。君も知っての通り、あの子は気まぐれだから、もしかしたら天が俺に味方するかもしれない」

 

「なあ、俺は酔うとどうしても性欲に呑まれるんだよ。君なら許してくれるだろ。わかってくれるだろ。「人の性欲」をこよなく愛している君なら」

 

「久々だな。唐突だけど君が面白がりそうな話を持ってきた。この間、ラブホへ行ったんだ。つまり一緒に行くような相手ができたってことで。君の知っている人ではないけれど」

 

入った学校からはいずれ出ていかなければならない。流行ったアイドルはいずれ解散しなければならない。年度が変わる。平成が終わる。時は流れ、未来は現在になり、現在は過去になる。

 

白い精子の中に、まぐわいは燃えて。

 

卒業の季節だ。